虫歯などで歯の根が細菌に感染してしまった際に根管内から感染物質を取り除き、洗浄と消毒をするのですが根管内に使う薬剤には時代と共に移り変わりがあります。
20年ほど前は交互洗浄という方法で次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素水を用いた発泡作用を用いた洗浄方法が使われていましたが今ではその洗浄方法もガラリと変わりました。
根管内洗浄に使われる薬剤
今の根管内洗浄と消毒の主流は次亜塩素酸ナトリウム単独での使用へと変わっています。
スメア(無機質の残渣)の除去としてEDTAを併用する事もありますが、消毒と洗浄の本体は次亜塩素酸ナトリウムによる有機質溶解作用を利用して行われます。
千種区にある歯医者の阿部歯科でも根管内治療の際に使用する消毒薬剤は、現在の歯科医学的な消毒方法の主流である次亜塩素酸ナトリウムを用いて行っています。
次亜塩素酸ナトリウムが洗浄の主流となっているのは日本だけでなく世界的な歯科治療の現在のトレンドですが、その濃度に関してはややはっきりしてない部分も実はあります。
根管内洗浄に使われる次亜塩素酸ナトリウムの濃度はおおよそ0.5%から5%、時には10%の濃度のものが使われますが、消毒と洗浄において濃度はそこまで重要な要素をしめないと指摘される事もあります。
むしろ、重要なのは次亜塩素酸ナトリウムを用いた洗浄の頻度と時間であって、濃度が上げる事では根尖部の歯周組織を痛めてしまい歯根膜症状を出す可能性が上がるとも指摘されています。
次亜塩素酸ナトリウムの根管内洗浄における最大の利点は様々な細菌に作用する範囲の広さで、それと同時に有機質溶解作用による感染や壊死した残存歯髄の溶解という点に根管洗浄に対する大きな利点があります。そのため、次亜塩素酸ナトリウムを用いた根管内洗浄が現在の歯科における主流となっています。
次亜塩素酸ナトリウム以外の他の薬剤はどうか
次亜塩素酸ナトリウムを用いた洗浄は消毒や有機質溶解という点において多くの利点がありますが、それと同時に歯周組織に薬剤が漏出した場合のダメージや象牙質における有機質への作用という点に課題が残っています。
次亜塩素酸ナトリウムに変わる薬剤として可能性を試されている薬剤の一つがグルコン酸クロルヘキシジンとなります。
グルコン酸クロルヘキシジンは歯周病領域においてしばしば使われる薬剤ですが、根管内における歯内治療においてもその可能性が調べられています。
グルコン酸クロルヘキシジンはグラム陽性とグラム陰性の細菌に対して幅広く作用を示しますが、その作用は濃度に依存します。消毒作用としては有効性があるものの次亜塩素酸ナトリウムとは大きく違う点がいくつかあります。
その一つがグルコン酸クロルヘキシジンには有機物溶解作用がないという点です。この点がないという事で次亜塩素酸ナトリウムと比べて歯周組織に薬剤が漏出した際のダメージが低くなるという一方で、根管内に残存する感染歯髄や壊死歯髄を溶解できないという弱点もあります。利点がそのまま逆に弱点にもなっているのです。
さらに細菌に対する消毒の作用が次亜塩素酸ナトリウムよりも弱いのではないかという事が言われています。様々な報告を見ると次亜塩素酸ナトリウムとグルコン酸クロルヘキシジンの消毒作用を比べると、
次亜塩素酸ナトリウムの方が消毒作用が強い
どちらも変わらない
グルコン酸クロルヘキシジンの方が消毒作用が強い
といった報告が混在していますが、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒作用がよく調べられている一方でグルコン酸クロルヘキシジンによる根管内の消毒作用は次亜塩素酸ナトリウムに比べるとまだまだ十分に調べられていないという現状があります。
根管内における洗浄は細菌と残存有機質の除去という点が重要になるため、薬剤という点から見た場合は次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄がまだしばらくは主流のままになるのではと思われます。
参考文献:
1) Sodium hypochlorite in endodontics: an update review. Mohammadi Z. Int. Dent. J. 2008.
2) Apical extrusion of sodium hypochlorite using different root canal irrigation systems. Mitchell R. P., et al. J. Endod. 2011.
3) The Effect of Sodium Hypochlorite and Chlorhexidine as Irrigant Solutions for Root Canal Disinfection: A Systematic Review of Clinical Trials. Gonçalves L. S., et al. J. Endod. 2016.