歯にはデンタルプラーク(歯垢)やバイオフィルムと呼ばれる口腔内細菌と細菌の出した細胞外物質などが混ざった汚れの塊が歯の表面や虫歯の溝の中に強固に付いています。
歯の形は非常に複雑な場所では歯ブラシなどでは届きにくかったり歯の溝の中には歯ブラシが入っていく事はできません。さらに口の中の細菌が歯の表面に作ったバイオフィルムと呼ばれる細菌の集団の汚れは非常に強くついているため歯医者さんで口の中を専用の機械で剥がすように取り除かないとなかなか奇麗に除去できません。
それでも日頃の歯ブラシや専門の機械でもなかなか届かない部位もあるのですが、科学雑誌サイエンスの姉妹紙のScience Roboticsから磁力の力を利用して細かい部位の歯の汚れを取るロボットに関する論文が出ました。(Catalytic antimicrobial robots for biofilm eradication. G. Hwang et. al. Science Robotics. 2019.)
磁力を動力にしてロボットを動かして歯の汚れを取り除く
論文では0.0002mmほどの酸化鉄のナノ粒子と過酸化水素水を主に使って専用の磁力を発生させる機械で粒子の動きを操って細かい部分の汚れを取ると説明しています。
口の中の細菌の大きさがおおよそ0.001mmほどなので細菌よりもずっと小さな粒子を利用して汚れを取る事になります。酸化鉄の粒子を利用する事で磁力に引き付けられた酸化鉄ナノ粒子の集団が磁力の方向に合わせてホウキのような構造体を作って細菌や汚れをかき取りつつ加えられた過酸化水素水の作用で酸化鉄から抗菌性のフリーラジカルが出る事で細菌を死滅させると説明しています。
この他にも強固にできたバイオフィルムを分解するためにいくつかの酵素を加えるとしていますが、実際に実験された汚れの除去試験ではものの見事に細菌も汚れもかき取っていました。動きも非常に繊細で磁力によって誘導された酸化鉄ナノ粒子の集団がわずか0.2mmほどの空間をすべるように移動して汚れを除去していました。
さらに別の方式も用意され、3Dプリンターを使って酸化鉄ナノ粒子を含んだドリル状のロボットを作っていました。3Dプリンターは歯科領域でも活躍されるようになってきておりかつてはなかなか作れなかったものが作れるようになってきています。
酸化鉄ナノ粒子で作り上げたドリルは写真で確認すると小さいものではおおよそ直径が0.5mmほど、長さが1mmほどのドリルロボットで1.5mmほどの空間をくるくるとドリルのように回転しながら移動して汚れをはぎ取っていきます。パイプ状の空間の中にたまった汚れをドリルロボットが磁力の力で操作されてくるくると回転しながら掘り進んでいく光景は色々な可能性を感じさせられます。
歯の汚れを取るだけにとどまらず
論文では虫歯予防のための歯の表面の歯垢やバイオフィルムの除去だけでなく歯の神経の治療の際の汚れ取りやインプラントの清掃、カテーテルの掃除にも使えるのではないかと説明しています。確かに0.2mmほどの空間を移動できるような汚れ除去ロボットや非常に小さなドリルロボットなら色々な可能性があると考えさせられます。
磁力自体はMRIにも使われていますのでこれで特定の細かい部位に磁力をかけられるようになれば色々な場所に入り込んで掃除ができるようになるかもしれませんね。
個人的には治療目的以外にも自動的に口の中を清掃してくれるような自動歯磨き装置ができれば歯ブラシでは届かない歯周ポケットの深い部分を掃除してくれて予防歯科という意味でも大変役に立つなと感じます。寝ている間に歯磨きロボットが口の中を掃除してくれて朝起きて口をすすげばいいなんていう時代が来るとすごくいいなと感じます。
池下にある歯医者の阿部歯科では患者さんの歯が長く持つように予防歯科に力を入れているのでこの分野の研究はまだまだ始まったばかりですが今後の研究の進展に目が離せません。