多剤耐性菌という言葉を聞いた事があるでしょうか?
もう随分前から複数の抗菌薬に抵抗性のある多剤耐性菌の問題が出てきていますが感染症で抗菌薬が段々と効かなくなってきていると言われています。
そこで今回は多剤耐性菌についてお話しをしようと思います。
記事の追記:2020年2月20日
薬剤耐性菌とは
薬剤耐性菌とはその名の通り薬剤に対して耐性のある細菌の事です。
ニュースでも院内感染の際に問題とされる事が多い薬剤耐性菌ですが具体的にどのように耐性があるかというと今までは効果のあった特定の抗菌薬に対して効果がなくなるもしくは効果が著しく下がるというものです。複数の種類の抗菌薬に対して耐性を持ったものは特に多剤耐性菌と呼ばれます。
通常は細菌の抗菌薬の感受性に関して最小発育阻止濃度という指標で薬剤に対する抵抗性を確認します。
希釈した薬剤に対して一定の濃度の細菌を培養して薬剤がどれくらいの濃度だと細菌の発育が抑えられるのかという事を確認して細菌の薬剤に対する感受性を試験していきます。
同種の細菌でも通常の最小発育阻止濃度よりも大きく高濃度でないと発育を阻止できないものや全く発育を阻止できなくなった細菌が薬剤耐性と認識されます。
有名な耐性菌ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌という細菌がありこの細菌は通常の黄色ブドウ球菌に有効であるβラクタム系の抗菌薬に対する抵抗性を獲得しています。
何故薬剤耐性を持つのか
細菌が薬剤耐性を持つにはいくつかの方法があります。
1つは細菌に取り込まれた抗菌薬を分解して無効にしてしまう酵素を細菌自身が作り出すように進化する事で、別の方法は抗菌薬が細菌に取り込まれないようにする方法です。
βラクタム系の抗生物質であるペニシリンがペニシリンを分解する酵素を産生するペニシリン耐性ブドウ球菌によって無効化された際に同系統の抗菌薬でありながら分解されないメチシリンを開発した経緯があります。
しかしその後βラクタム系抗菌薬が結合するために取りつくペニシリン結合タンパク質の立体構造を細菌が変える事でメチシリンも無効になりました。
これがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌です。βラクタム系の抗菌薬はこのペニシリン結合タンパク質という酵素に結合して細菌のペプチドグリカンの合成を阻害して薬効を発揮していたのですがこのような耐性菌の出現によって無効化されてしまいました。
薬剤耐性はこのような細菌の新たなタンパク質の発現の結果生まれた機能であり、通常の細菌の中からごく低い確率で出現してきます。
この新たなタンパク質の発現の機能を複数獲得して複数の種類の抗菌薬に耐性を持った細菌が多剤耐性菌と呼ばれています。
歯科領域においては耐性菌はあまり話題になりませんがどのような細菌でも薬剤耐性を獲得する可能性があるため薬剤耐性の獲得機構を歯科医師もしっかり理解してないといけないのです。特に感染症の対応が多い口腔外科領域や歯周病の領域でも注意しないといけません。