古代から現代にかけて人の進化の過程で脳の入る頭蓋骨は大きく、目や鼻、口を含む顎や顔は小さくなるという風に変わってきました。
しかし、それと共に歯の大きさが小さくなる傾向にあり、親知らずをはじめとして歯が欠損するという歯の退化傾向も認められるようになりました。
実際には歯の退化傾向、つまり、歯の欠損という数の変化が顔の大きさに影響を与えるのか分かっていない部分はあります。
歯の先天性欠如によって起きる顔の大きさへの影響
一部の歯の永久歯がない、先天性の欠損という状態は患者さんの中でも時々認められます。
そういった場合にその部位の乳歯は生え変わる事がなく、永久歯の変わりに使い続ける事になるのですが、永久歯に比べて乳歯では長持ちという点において難しい点があるのも事実です。
そのような永久歯の先天性欠損ですが、親知らずにおいてはみられる方が比較的多いものの、他の部位の歯では時々みとめられるにとどまります。
このような、歯の退化傾向とも呼べる歯の欠損ですが、人の進化における顎や顔の小ささに影響を与えているのかを調べた時に歯の先天性欠損のある人はその数に合わせて顔の大きさが小さくなる傾向があると報告もされます。
例えば、15歳の女性の特定の部位の顔の長さを計測した時に
永久歯が全て生えている人
永久歯が1本欠損している人
永久歯が10本欠損している人
を比べた場合にそれぞれでおおよそ、512:511:502と顔が小さくなる傾向が認められています。
永久歯が1本退化傾向で欠損しているかどうかではほとんど変わらないものの、多数の永久歯が欠損すると顔の大きさへの影響は大きく認められる事が分かります。
親知らずを除く永久歯のどこかに欠損が出る確率はおおよそ6.4%ほどとされ、日本人の子供でも10人に1人は永久歯の欠損があると言われています。
歯の欠損自体はめずらしいものではないものの、しかし、通常よくある1本ほどの欠損ではそこまで顔の大きさに影響は及ぼさないという事になります。
永久歯の先天性欠損は顔の大きさのどこに影響するか
永久歯の先天性欠損が顔の大きさに影響するという傾向がみられるものの、具体的にどのような場所に影響するかというと口の位置する顎の骨という事が分かります。
顎には上顎と下顎がありますが永久歯の欠損によってその影響を受けるのは上顎のみで下顎にはその影響を受けないと報告されました。
そして下顎にはその大きさの影響はなく、脳の位置する頭蓋骨にもその影響はないとされました。
歯の生える口から遠い頭蓋骨には影響が少ないという事は分かるものの、このような上顎と下顎の成長の影響に差が出るのは顎の骨の発育の順序が関係しているのかもしれません。
上顎と下顎を比べるとその発育速度は大きく違い、上顎の方が下顎よりも早く発育します。
10歳時点では下顎の発育段階はまだおおよそ50%ほどですが、上顎では80%ほども成長が終了しています。
ちょうど歯の永久歯の生え変わる時期と上顎の成長の時期が一致しており、下顎は永久歯が生え終わった後に成長がすすんでいきます。そのため、永久歯が生えるという口の中での変化が上顎の骨の成長に何かしらの影響を与えているのかもしれません。
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参考文献:
1) Prevalence of hypodontia and associated factors: a systematic review and meta-analysis. Khalaf K., et al. J. Orthod. 2014.
2) Number of teeth is associated with facial size in humans. Oeschger E. S., et al. Sci. Rep. 2020.