口の中の腫れには様々な病気があり、中には注意をしないといけないものもあります。
症状のないものから痛みを伴ったり顔が腫れたり、悪性の癌であったりその種類は様々です。
その中でも歯の組織学的な発生に原因を認めるエナメル上皮種という病気があります。
エナメル上皮種は良性腫瘍であるにも関わらず浸潤や転移を認める事もあり再発率も高く、時には再発を繰り返す事で悪性化する事もあるというやっかいな病気です。
エナメル上皮種って何?
エナメル上皮種は元々歯を作る細胞であった歯胚の中のエナメル器が腫瘍化した病気です。
歯原生腫瘍の中では最も発生頻度が高く、発育が緩慢で腫瘍発生から腫瘍発見まで数十年かかる事もあります。
平均約40歳で認められ、発生初期には自覚症状がない事が多く、見た目や症状からは発見が困難でレントゲン撮影によって偶然発見される事もしばしばあります。
症状が出ると
①痛みや顎の骨の膨隆
②歯の動揺や傾斜
③下唇の知覚麻痺
などが出る事がありますが無症状で経過する事が多く、症状を自覚するまでには腫瘍発生からかなりの時間が経過していると考えられます。
再発しやすい理由
エナメル上皮種は良性腫瘍にも関わらず再発をしやすい病気です。
良性腫瘍ですが癌のように組織への浸潤が多く認められ、単一腔の単房性の病変のみならず多房性の複数の隔壁を持つ状態や石鹸の泡のように顎骨内に病変を作る事もあります。
このような浸潤性の強さが良性腫瘍であるにも関わらず高い再発率を引き起こす原因の一つにもなっており転移する事もあります。
治療法
エナメル上皮種における治療はとにかく腫瘍を摘出するという事に尽きます。
腫瘍の進展に合わせて
①腫瘍の摘出
②掻把
③顎の骨ごと腫瘍を摘出する顎骨切除やそれに伴う顎骨再建
④凍結療法や化学的焼灼法の併用
など治療法は様々です。
発生確率は10万人あたり1人以下と言われており、稀ではありますがエナメル上皮種の診断がくだった場合は治療も含めて経過観察も慎重に行う必要があります。
エナメル上皮種の経過
治療法において嚢胞を掻き出す掻把のみを行った場合は再発率が100%近くとなり、単純に摘出をした場合でも70%近くの再発率を認めるため複数の治療法を併用して行う事になる事がしばしばみられます。
適切なエナメル上皮種の治療を行った際の再発率はそれでも17%ほどあり、再発率は高い状況にあります。
最も再発率の低い腫瘍ごと顎の骨を切り取る顎骨切除をした場合でも再発率は10%ほどと言われています。
再発が起きた場合は半数が2年以内に起きると言われていますが10年を超えて再発が認められる場合もあり、経過は長期で見る事が大切となります。
そのため、エナメル上皮種の治療後の経過はおおよそ10年目までは慎重に見ることが推奨される事もあります。
エナメル上皮種の鑑別診断
エナメル上皮種との鑑別診断はいくつかありますが、その中でも歯原性角化嚢胞、含歯性嚢胞、歯根嚢胞があります。
これらはレントゲン上でエナメル上皮種と似た像を示す事があり、経過も変わります。
その中でも歯原性角化嚢胞との鑑別が困難になる事がしばしばあります。
歯原性角化嚢胞は、かつてはWHOの分類で腫瘍に分類されており角化嚢胞性歯原性腫瘍と呼ばれていましたが2017年からは嚢胞に分類されて名称の変更が行われています。
発生率もエナメル上皮種と比較的近く、エナメル上皮種同様にしばしば埋伏歯を含む事もあり画像診断で見分けがつきにくい事もあります。
治療で大切な事
細胞学的、組織学的な性質から再発する事がしばしば認められるという特徴から診断が下り治療が完了した後は主治医に従って予後の経過をしっかり見るという事が大切となります。
引っ越しなどで受診できなくなる場合は主治医にしっかり相談してその後の対応を決めていく事が大切になると思います。
阿部歯科でも長く千種区で歯医者をしていますが、やはりエナメル上皮種に遭遇する事は稀です。実際にエナメル上皮種の診断がくだり治療後の経過観察をしている患者さんは数年から十数年の長期にわたってレントゲン撮影を定期的に行い確認をしています。
エナメル上皮種の治療後にはこのようにレントゲン撮影による経過観察を定期的に行う事がとても大切となってきます。