歯周病になると歯肉が下がるだけではなく、歯を支える歯槽骨自体も吸収されて溶けていきます。
そして、骨が溶ける事が結果的に歯が抜けるといった症状へとつながっていきます。
なぜ歯周病で骨が溶けるのかという事には体の機能が関係しています。
歯周病が骨を溶かす
歯周病は、通常では悪さをしていない悪性度の低い細菌の状態では骨は溶けません。
口腔内清掃の悪化などの理由で、悪性度の高いDysbiosisと呼ばれる細菌の状態へと変化する事(マイクロバイアルシフト)で骨が溶かされていきます。
しかし、歯周病による症状、腫れや出血、歯槽骨が溶けるといった症状は悪性度の増した細菌そのものが直接起こしているわけではありません。
それらは、細菌に反応した体の様々な細胞によって起きている反応です。
歯肉の腫れといった炎症も、悪性度の増した細菌に反応した免疫細胞が種々のサイトカインなど様々な物質を放出する事で起きます。
それに伴って血管の拡張や透過性の亢進などを引き起こし歯の周りが腫れるといった状態を引き起こしています。
それと同様に、歯を支える歯槽骨が溶けるのも悪性度の増した細菌からなんらかの物質が出て骨を溶かしているわけではありません。
別の細胞によって骨が溶かされています。
歯槽骨を溶かしている原因となる細胞は、通常でも体の骨の代謝(骨改造)を行っている破骨細胞によって行われています。
骨は溶けては作られているが歯周病では一方的に溶ける
体の中の骨は常に新しく作りかえられており、溶けては作ってを繰り返してどんどん新しい骨へと置き換わっていきます。
成人では1年間での骨の置き換わり(骨改造)は全体のおおよそ2%ほどと言われています。
そのため、通常では骨には骨を溶かす破骨細胞はまばらに見えるのみにとどまります。
しかし歯周病の起きている部位では破骨細胞が非常に多く見られます。
この組織学的な状態が歯を支える骨である歯槽骨を過剰に溶かすという症状を作り出しています。
正常な骨では骨を溶かす破骨細胞と骨を作る骨芽細胞がタッグとなるユニットを組んで行動します。
このユニットは行動を開始するとおおよそ4か月間共に骨の改造を行います。
このユニットは
・活性化
・破骨細胞による骨吸収
・骨吸収から骨添加への変化
・骨芽細胞による骨形成
といった手順を踏みます。
このようにして破骨細胞と骨芽細胞によって骨は溶かされては作られてといった恒常性が維持されています。
歯周病で溶かされる骨
通常では破骨細胞と骨芽細胞によるユニットの共同作業で骨は新しくどんどん置き換えられていきます。
歯周病ではこのような共同作業とは全く違った事が骨で行われています。
破骨細胞は重要な免疫細胞で単球やマクロファージの前駆細胞から分化をしており、それらの細胞と共通の起源を持ちます。
破骨細胞はM-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)やRANKL(破骨細胞分化誘導因子)といったサイトカインによって分化され活動を開始します。
炎症の際には、悪性度の増した歯周病細菌によって活発化した免疫細胞によってこのようなサイトカインが数多く放出されます。
その結果破骨細胞が急激に作り出され、そして骨を急激に溶かしていくのです。
つまり、通常の歯周病では
・口腔内清掃状態が悪くなる
・悪性度の低い状態から悪性度の高い細菌状態へと変化する
・細菌に対して免疫細胞が集まりだす
・免疫細胞が様々なサイトカインなどを放出する
・腫れや易出血性などの炎症が起きると共に、破骨細胞が活性化される
・歯肉が腫れて歯槽骨が溶ける
・歯周病となる
・歯肉からの出血や細菌による代謝物が栄養となり、さらに細菌が増殖する
・さらに歯周病が悪化する
といった悪循環が起きるのです。
千種区の歯医者の阿部歯科ではこのような歯周病の悪循環を断ち切るために、位相差顕微鏡を導入して細菌の密集具合を直接確認しています。
さらに消毒薬を使っての清掃をする事でいかに悪性化した細菌の状態を改善させていくかという事に力を入れています。
細菌感染によって歯肉に炎症が起きるのは免疫細胞が細菌と戦おうとした結果ともいえます。
その結果自分自身の組織も自ら痛めてしまう事となります。
一方で炎症によって大量に作り出された破骨細胞は歯を支える骨を溶かし結果として歯の脱落(歯が抜ける)といった結末へと向かっていくのです。
しかし、この理由は細菌感染を引き起こした感染源である歯そのものを脱落させる事でその感染源を取り除こうとする体の反応の進化ではないかという考察も報告されています。
実際に重度の歯周病でも、歯を失う事で感染源そのものがなくなると急激に状態が回復するのでこのような歯周病に対する破骨細胞の反応も体を守ろうとする防御機能の一つなのかもしれません。
参考文献)
1) Recent advances in osteoclast biology and pathological bone resorption. Blair H. C. and Athanasou. N. A. Histol. Histopathol. 2004
2) Osteoporosis and inflammation. Mundy G. R. Nutr. Rev. 2007
3) Mechanisms of Bone Resorption in Periodontitis. Hienz S. A., et al. J. Immunol. Res. 2015.
4) Host defense against oral microbiota by bone-damaging T cells. Tsukasaki M., et al. Nat. Commun. 2018.