こんにちは、千種区の歯医者の阿部歯科です。
直近で虚血性心疾患に伴う心筋梗塞の発作のあった患者さんには歯科治療中の不用意な痛みの伴う治療はかなり慎重にならないといけませんが、この治療に伴う歯への痛みが心筋虚血状態の発作に影響する可能性があるということの他に、心臓側の心筋虚血の状態および症状が歯の疼痛を含めた口腔顔面領域の疼痛を引き起こす場合もあると言われています。そこで今回は心筋虚血状態、特に心筋梗塞に伴う歯の痛みという内容でお話をしようと思います。心筋虚血状態による歯の痛みの症状は肩や腕などに生じる副産物的な痛みに比べて稀ですが、歯原性ではない歯の疼痛の発生の可能性という意味で心筋梗塞の既往のある患者さんの歯痛への鑑別診断として必要な知識の一つとなります。
心筋虚血の症状が歯の痛みを引き起こす可能性があるのか?
心臓疾患による症状に関連して痛みを感じる可能性のある部位では肩や腕などが有名だと言われていますが、口腔顔面においても心筋梗塞による歯の痛みや顎の痛みの発生が報告されています。心筋梗塞に関連した口腔顔面領域の痛みの発生は6:1で片側よりも両側に起きることが多く6%の患者に口腔顔面領域のみに心筋梗塞の症状に伴って痛みが発生したという報告もあります(Craniofacial pain as the sole symptom of cardiac ischemia: a prospective multicenter study. Kreiner, M. et al. J Am Dent Assoc. 2007)。そのため、解剖学的に離れた歯を含む口腔顔面領域と心筋虚血に伴う心臓の痛みに何らかの関連性がある可能性が指摘されます。心臓疾患、特に心筋虚血に伴う歯の痛みの発生の原因については種々の可能性が考えられています。
なぜ関係ない歯に痛みを感じる可能性があるのか
心臓と口腔顔面の歯という解剖学的に離れた位置にある組織の間に関連痛が発生する機序については様々な仮説が挙げられています。ただ、これらの仮説には議論の余地が多く原因が「これ」と断定されているものがまだありません。交感神経を介して歯痛を発生させるという説もその一つです。他には心臓に分布する迷走神経神経を介して歯の痛みを引き起こしているのではないかとも言われており、迷走神経刺激療法の際に歯痛を訴えるようなケースレポートも紹介されています(Vagus nerve pain referred to the craniofacial region. A case report and literature review with implications for referred cardiac pain. Myers, D. E. Br Dent J. 2008)。その他には心臓からの求心性の刺激が三叉神経に影響して口腔顔面痛を引き起こす可能性が指摘されています。
このようにメカニズム自体ははっきりしていない部分があるものの心筋虚血の症状が顎や歯の疼痛を引き起こす可能性があるという事も心筋梗塞の既往のある患者さんの歯痛への鑑別診断には大切となってくるのです。