口腔内には虫歯の原因となるう蝕関連細菌や歯周病の原因となる歯周病関連細菌をはじめとして、比較的無害な細菌から有害な細菌も含めて数百種類の細菌が住み着いています。
これらの細菌はいつ口の中に住み着いたのでしょうか?
口腔内に住み着いた細菌はその時の年齢や体の状態によって共生細菌として細菌叢を作り上げて常に宿主となる人と共にいるのですが、当然、人の発生の段階で臓器のように体の中に作られているわけではなく外来から体にもたらさせます。
しかし口の中の細菌が最初にいつ住み着き始めたのかは不明な点が多くあります。う蝕関連細菌や歯周病関連細菌は親族やパートナーに関連して感染する事が分かっていますがその他の共生細菌は生まれた時にいつどこから感染していたのでしょうか?
胎内にいる時に最初の胎児の口腔内細菌叢ができあがった?
かつて妊娠中の子宮内は無菌で胎盤や羊水は無菌だと考えられていましたが、ここ数年の研究でサンプルを包括的に分析するメタゲノム解析によって胎盤や羊水にごくわずかに細菌の遺伝子が確認されるようになりました。
その結果を踏まえて胎盤や羊水には細菌が含まれており胎児の時点で体の中に細菌叢を作り上げて口腔内にもその段階で初期の口腔内細菌叢が作り上げられるのではないかという話が出てきました。
しかしこの胎盤や羊水が無菌か無菌でないかという話は未だに決着がついていません。メタゲノム回析によって胎盤や羊水から得られた細菌の痕跡はごくわずかでサンプル採取の際や試験中の器具からのコンタミネーション(汚染)の可能性を排除しきれていないからです。
子宮内は無菌なのか?無菌でないのか?という最終判断がまだついていない中でメタゲノム回析と16S rRNAのアンプリコン回析を組み合わせて偽陽性(陰性が陽性として確認される状態)を可能な限り排除して胎盤が無菌かどうか調べようという研究が537人を対象とした大規模研究として行われました。
その結果では数多くの細菌の痕跡が見つかったもののB群溶血性連鎖球菌のみを除いて他の全てがサンプル回収や試験中のコンタミネーションと報告されました。そしてB群溶血性連鎖球菌の感染もサンプルの5%にとどまりました。
そのため、元々言われていたやはり子宮内は通常の状態では無菌ではないのか?という事が考えられるようになりました。
口腔内細菌は乳児にいつ感染したのか?
偽陽性を可能な限り排除した大規模研究で昔から考えられていたようにやはり子宮内は通常は無菌なのでは?という可能性が出てきた事でそれではいつ乳児に口腔内細菌叢が形成されたのかという疑問が再び出てきます。
そして最近の研究では細菌の分布の類似性を確認した時に母乳の細菌叢が乳児の口腔内の細菌叢に類似しているという結果が出ています。
母乳には免疫に必要な成分の他に数百種類の細菌が含まれていると言われておりその細菌が乳児の口腔内の共生細菌叢を形作るのに寄与しているのではという考え方です
子宮内が未だに無菌か無菌でないのかはっきりしていないものの、その他の要因を考えた時にもごく初期の生まれたばかりの乳児の口腔内細菌叢の状態は母親から受け継いだ細菌叢の影響を色濃く反映しているのかもしれません。
池下の歯医者の阿部歯科では口腔内細菌の状態を確認するために顕微鏡による検査を取り入れており、虫歯や歯周病と細菌の関わりには大変注意を払っているため口腔内の細菌叢の成り立ちには強い関心を持っております。
(関連記事:阿部歯科の歯周病治療に関して)
参考文献
1) Could baby’s first bacteria take root before birth?. C. Willyard. Nature. 2018.
2) Human placenta has no microbiome but can contain potential pathogens. M. C. de Goffau, et al. Nature. 2019.
3) Microbiota of human precolostrum and its potential role as a source of bacteria to the infant mouth. L. Ruiz, et al. Sci. Rep. 2019.