歯科治療をしていると治療とは別に時々思いもしないような状況に出くわす事があります。
歯科治療とは直接関係ないものの患者さんの心理状態や緊張、体調など様々な要因で起きる偶発的な症状があります。
その中でも今回は過換気症候群というものに関してお話をしようと思います。
記事の追記:2020年5月21日
過換気症候群とは
極度の精神的な緊張により通常よりも過剰に呼吸回数が増えて、それによって様々な症状が現れる一過性の症候群です。
歯科治療前の極度の緊張や治療に対する不安から無意識の内に呼吸回数が増えて過換気症候群を起こす、もしくは起こしかける方もいます。
通常よりも呼吸回数が増え、肺での酸素と二酸化炭素の交換が必要以上に多く行われる事で血液がアルカリ性に傾むくことで様々な症状が現れだします。
過換気症候群の兆候を見逃さない
歯科治療において患者さんが治療に対して緊張する事は珍しいことではありません。
しかしながら患者さんの中にはその緊張を無理に隠して過呼吸に知らない間になる人もいます。特に針を使った麻酔の際に緊張が最大限に達して過換気症候群の症状がで始める方もいます。
特に注射の際のトラブルでは、I型アレルギー反応のアナフィラキシーショックなのか迷走神経反射なのか過換気症候群なのかもしくは癲癇などの他の原因なのか素早く判断する必要があり、判断違いでは全く無意味な処置をしたりさらに状態を悪化させてしまう事もあります。
今回の過換気症候群の場合は、その発生の機序から浅く早い呼吸が確認されます。そのため、呼吸をする際の胸郭の上下運動を確認する事で過呼吸があるかどうかが確認されます。
過換気症候群で初期に現れてくる症状の中に目眩や指先の痺れというものがありますが、目眩がしてクラっとしたという理由で迷走神経反射と判断して安静にするという処置を取ると過呼吸が継続されたままさらに血液がアルカリ性に傾く事で呼吸性アルカローシスが進み、症状がどんどん悪くなってしまう事さえあります。
そのため、鑑別診断を行うために素早く胸郭の動きを確認して呼吸回数の増加があるかを見ます。
胸郭の動きは服の上からでも目で見て確認できるので難しい事ではありません。それと同時にショックの症状が出てないといった事など他の症状の併発の可能性を同時に確認していきます。
過呼吸が確認されたら
過呼吸を素早く確認したら最初にする事は患者さんに意識的に呼吸回数を減らすように指示する事です。
胸郭の上下運動を確認しながら過呼吸が改善されるまで患者さんに呼吸回数を意識的に減らすように指示し続けます。
過呼吸があるのにそれを見逃して迷走神経反射だと診断して安静にするという処置をとった場合は過呼吸が自然と解消されないとさらに過換気症候群の悪化を引き起こす可能性があります。
過呼吸による過換気症候群の行進を放置するとアルカローシスによって筋肉の硬直や意識障害といった状況に陥る事もあります。
こうなってしまうとショックや痙攣ではないかと誤った診断をおかしてしまったり酸素を吸わせるといった全く逆の処置をしてしまうなどといったさらなる悪循環へと陥ってしまう事さえあります。
ここまで症状が進んでしまうと歯科医師側で酸素と二酸化炭素の交換の調整を行う必要があるのですが、しかしながら過換気症候群への対処の鉄則は初期の過呼吸の状態を見逃さないという事が基本中の基本となっており、筋肉の硬直や意識障害になるまでアルカローシスを放置するという事は問題となってしまいます。
歯科治療の最中は時々このような治療とは別の問題も起きる事があるのでそれぞれの症状の特徴と発生機序と発現頻度を理解して素早く正しく対処する能力が必須となってくるのです。
指の痺れなど特徴的な症状も患者さんから自発的に訴えない場合もありますので、疑われる診断に対して積極的に問診する事も大切となります。
ーーーーー 患者さんだけでなく歯科医療関係者の方々にも向けて歯科医療の向上のために情報を共有できればいいなと思っています。名古屋市千種区にある歯医者の阿部歯科からのお知らせでした。 -----