「何故虫歯菌はなくならないのか」というこの疑問は皆さんも一度は思ったかもしれませんね。酸を産生して歯を溶かすストレプトコッカス ミュータンス菌を代表とした様々な虫歯に関連する細菌(関連記事:「ミュータンス菌が虫歯の原因に」というのは10年前の話)は何故根絶できていないのでしょうか?
記事の追記:2019年9月9日
ワクチンでミュータンス菌を代表とした虫歯の原因菌を根絶できない訳
この、ミュータンス菌やその他の虫歯菌に対するワクチンを作って根絶すればいいのではないか?という疑問を思われた方もいるかもしれませんが、実はこのワクチンを使って菌を倒すという方法は歯の表面に取り付く細菌には無効なのです。この理由を説明する前にワクチンとは何か、という事からお話しないといけません。
ワクチンという物を簡単に説明すると、細菌を構成するするタンパク質の一部、もしくはそれに類似した物などを使って体に免疫力を持たせる方法です。この方法で細菌に対する免疫力を持った場合はそのターゲットとなった細菌のタンパク質にうまく合わさる抗体が出来上がり、この抗体が細菌の表面に付着するようになります。この抗体の付着によってマクロファージなどの細菌を食べてしまう細胞が活性化されるのです。しかしながら、この免疫細胞は血中であったり、組織の中であったり、または歯茎の付近にはいるのですが、歯の表面に這い出してくる事はありません。ワクチンに必須の反応である抗原抗体反応に関しては(関連記事:アレルギーとは、歯科治療とアナフィラキシーショック)の項目でも触れています。抗原抗体反応を利用する限りではミュータンス菌やその他の虫歯菌の細胞表面に存在するタンパク質をターゲットとしてワクチンとしての抗原抗体反応により体に抗体を作らせる事は可能なのですが、抗体がミュータンス菌やその他の虫歯菌に付着した後の貪食細胞によるオプソニン作用は期待が難しいという事になってしまいます。
では、抗体の中の粘膜免疫系に機能する抗体である分泌型IgAではどうかと言うと、IgAにおいても粘膜上での免疫系細胞の遊走に作用するものの歯の表面での免疫細胞によるオプソニン効果は難しいと言えてしまいます。ワクチンで作ったIgAに中和作用としての分子標的薬のような役割を期待した場合は有効な可能性もありますが常にターゲットとする細菌に対する抗体価を上げ続けるために定期的にワクチンを摂取し続けないといけないという別の問題が出てきます。
これが、例えワクチンで虫歯菌に対する抗体を作ったとしてもなかなか効かない理由になってしまうのです。抗体が作られて例え抗体が虫歯の原因菌の表面に付着したとしても、歯の表面で酸を出して虫歯を作っている細菌の元まで免疫細胞がやって来られないという事といかにして細菌に対する抗体価を維持し続けるのかというところに大きな課題が出てしまうのですね。
歯周病菌はワクチンで根絶できるのか?
虫歯に続いて、では歯周病ではどうかというと歯周病の場合は虫歯の場合と大きく異なることがあります。それは歯周病に影響する菌の種類です。虫歯の場合はミュータンス菌が虫歯に影響してきますが、歯周病の場合は複数の菌種が入り乱れるようにして歯周病を引き起こしています。そのため、この細菌だけをやっつければいいとはならず、ワクチンで対応する事ができなくなってしまいます。歯茎の部分では免疫細胞が大きな役割を果たしているのですが、歯周病では1種類の細菌だけをやっつければいいというわけではない事に問題がでてきてしまうのです。生ワクチンや不活化ワクチンなどの複数の抗体産生を期待するようなワクチンは少し別ですが、ワクチンでは特定の細菌の特定のタンパク質の特定の部位をターゲットとするという非常に特異性の高い手法がとられるため、不特定多数を目標とするにはあまり向いていないのですね。
このように、虫歯でも歯周病でもなかなかそれに関連する細菌を取り除ききる事が難しいので、やはり基本は歯をよく磨いて汚れを取って全体的に色々な細菌が歯や歯茎にたまらないようにする事が大切となるのです。
—– 千種区の池下の歯医者、阿部歯科からのお知らせでした —–